No. 88  与えられる理由

あーー、いそがしかったぁ。 11月20日から、この金曜日の7日まで。 日本の盆暮れ正月が一気にくるこのアメリカのこの季節。 11月20日の週は、サンクスギビングの週で、そのあと12月の上旬が子供達の誕生日。 家に滞在する人も増え、おいしいものを一緒に食べるから、お勝手に詰めきりとなる。

子供の誕生日は、午前中、子供達が日本語学校に行っている間、ばたばた準備して、93歳のおばあちゃんもこき使い、料理。 2時から子供11人が家に来て、パーティ。 ゲームをして、ケーキ。 

ケーキは、また手作りにした。 アメリカのケーキって、青、紫、黄色、その他どくどくしい着色料をどーっと使っている上に、美味しくない。 ヨーロッパ風のケーキに慣れている日本人にとっては、アメリカのケーキは、どうもいただけない。 っちゅーことで、作った。

子供達のPartyのあとは、大人たちを呼んで、Party。 普段からお世話になっている仲の良いご近所さんたち、学校の先生、パタリロ牧師夫妻。 そしてパーティの特別ゲストとして、93歳の義母を準主役に添えた。 それまで、前菜を作ってもらったり、フライパンの焦げ付きをがりがりと綺麗にしてもらっていたんだか。


さて、話は、遡る。 この夏、義母と義父のいるニューメキシコ州サンタフェに行った。 毎年、2-3回は行き来している仲なので、また行った、というのが正しいか。

夏だから、雑草も生えているだろうから、芝刈りと、雑草抜きと、庭木の剪定をしようと構えて行った。 また、家の中も、掃除機をかけてあげよう、と思って行った。

11時間運転して、サンタフェにあるモーターホームに到着。 小さなプレハブみたいな質素な住まいである。 家の中に入ると、綺麗。 掃除機をかけた後がある。 庭も、ちゃんと、芝刈り機がかかっていた。

義父のじいちゃんは、片目は見えないし、歩くのも億劫だから、掃除も芝刈りもできない。 じゃあ、身長たった145センチくらいの義母が掃除と芝刈りしたのか?としばし黙ってしまっていた。

その後、わかったのは、ご近所さんが手伝ってくれたそうだ。 そのご近所さん、あとで訪ねてきてくれた。 感じの良い、60歳代の大きな女性であった。 そのあと、その女性はうちの子供達をゴーファー(あなもぐらねずみ?)に餌付けできるとこに連れていってくれたりもした。 子供達は大喜び。 ゴーファーたちの生態もよーく観察したらしい。 

後日、ダラスに戻ってきた後、ゴーファーたちがどうやって「交尾」するのかも、二人でデモンストレーションしてくれちゃったよ。 「通常、男の子が上になるのよねー。」とか言って、しゃがんで、おんぶの格好をしていた。 詳しい意味はよくわかっていないようだが・・・・。 見ているほうも、大笑いしたらいいのか、頷いたらいいのか、よく観察できましたっ、って褒めてあげるべきか、躊躇した。 ただ、二人のしぐさが可愛かった。

ゴーファーの交尾はさておいてっと。
 

おばあちゃんちには、よく人が訪ねてくる。 私達が来たということで、おなじみのノーマという女性が訪ねてきた。 やはり、60歳代かな。 独身。 ちなみに、そのコミュニティーは50歳以上の人が住むトレーラーパークというところなので、私達のような子連れは住めないところである。

その日は、おばあちゃんは、旦那と旦那の弟が、子供と一緒にキャンプに連れていっていて、不在。 私は、じいちゃんの面倒を見ていた。 ノーマを、ちょうど夕食中だから、ご一緒にどうぞ、と招待した。 じいちゃんは、ばあちゃんが旅行中に面倒を見てくれるノーマと楽しそうに話していた。 一通り、夕食が終わり、お茶をだして、私も会話に参加。 

ノーマは、トレーラーパークの管理人がもう芝刈りをしてくれなくなった、と何回も不満を漏らしていた。 じゃあ、いつもじいちゃんを面倒みてくれているので、私が芝刈りをしやしょう、と約束した。

芝刈りの日、ばあちゃんんもかえってきていたので、芝刈り機はどこ?と聞くと、「ああ、あれは、近所の人から借りたのよ。」だと。 なので、ばあちゃんの家にあるエッジャーという、芝の端っこを整えたり、芝刈り機が入らない狭い場所を刈る機械をもって、ノーマの家に行った。

小さい庭だし、芝刈りや庭の手入れは慣れているんで、30分ほどで芝刈りは終了。 あとは、不要な枝や生えかかっている小さな木をのこぎりで切った。 

ノーマもそばにいた。 私に話しかける内容は、すべて文句であった。 なんでだかわからんが。 彼女は、家の修理のこと、屋根の上まで伸びきった枝をどうするか、医者のこと、健康のこと、車のこと、など、ありとあらゆることに対する不平不満を次から次へと私に話していた。 その日も、家の前面の木の部分が腐りかけてきていて、業者を呼んだけど、来なかったということを、何度も何度も文句として聞かされた。

60歳過ぎて、女性一人暮らしは大変だろう。 家のメンテなど、一人で出来きれないことが多いから、そりゃー、大変だろう。 うんうん、大変だね、と頷きはした。 しかし、文句ばかり言っていても、家は勝手に直らないから、ほかに出来る方法とか、他の人に電話した方がいいんだよなぁ、と思いもした。 でも、一応、お話し相手は、年配の女性だから、黙って聞き役に徹した。

とどのつまり、彼女の言いたいことは、誰も彼女の為に、芝刈りや、家の修理を率先して、やってくれないということなんだろう。


日が高くなり、暑くなってきたので、家にもどろうとした。 そうしたら、芝刈りの費用、いくら欲しいの?と聞かれたので、「そんなの、いただけません。 いつも、じいさんが世話になっているから。 家の前面の修理は私でもできますから、言ってください。」とその場を辞した。


家に戻り、お昼をじいさんとばあさんに用意した。 いつもながら、ラテン系の家族だから、食事しながら、いろいろとお話をする。 そこで、私はあることに気がついた。


ばあちゃんが文句たらたら言っていることって、あまりない、と。 パナマの家族の問題で、一人座って考え込んでいる姿は、一回見たことがある。 でも、それはそれで終わってしまった。 だらだらと、引きずらなかった。 息子さんのことで、いろいろあったときも、彼のことを責める発言は一つも無かった。 じいさんの介護要員が一回来たきりで、来なくなってしまったことも、一回だけ聞いた。 文句だったけど、それっきり。

ばあちゃんは、文句をたらたらと垂れる人ではない。 ちょっと悩んでそれでおしまい。 後は、前進してしまうのである。 93歳の老婆が。 なので、家の中は、明るい。 声もでかいから、うるさい。 でも、しつこく、うだうだ、文句を続け、暗い雰囲気に浸りきってしまう、ということは、無い。 


私は、ここに、何故、庭の芝刈りが、近所の人に借りた芝刈り機を使って、近所の人がしてくれたのか、そして、家の中がきちんと掃除されていたのかが見えた。 芝刈りも掃除も、ばあちゃんが電話して頼んだのではない、と思う。 ご近所さんとの会話のなかで、私達が来るんだよ、と話したんだろう。 そしたら、ご近所さんが、「じゃあ、私が芝刈りやってあげましょう。」ってことになったと思う。

ノーマと較べてしまった。 ノーマのほうは、文句たらたらで、その文句の中に「生きて」しまっている。 そして、必要なものが満たされていない。 

一方、ばあちゃんは、未達成・不履行・不便からくる不平不満の中に住んでいない。 そして、好意が向こうのほうからやってくる。 ばあちゃんは、折あるごとに、世話になった人たちを食事に呼んだり、それなりのお返しをけちらずにしている。


聖書の中に、
「いつも感謝しなさい。 どのような時でも、感謝していないさい。」
という箇所がある。


ばあちゃんのしていることって、まさにこれだな、ってその時思った。 ばあちゃんは、カトリックだから、聖書は読まない。 司祭のお話を聞くだけだった思う。 だから、聖書をよんで、聖書の言葉を「敢えて」実践しているわけではない。 

でも、ばあちゃんの生き方は、神様に喜ばれる生き方なんだろう。 ぐだぐだ文句いわんし、文句をずるずる引きずらない。 あたられたときは大声で感謝の念を表す。

だから、「与えられる」のだと思う。 庭の手入れも、家の掃除も・・・・・。



私はここで「文句言うな」とはいいたくない。 何故なら、3年前の私は、文句たらたらの、人ばかりを責めていた人間だったから。 たしかに、つらいこと、考えられないようなことが起こると、人間、不満を誰かにぶちまける。 そうすることによって、進んでいけることがある。 なので、私は、人の文句は、時間をかけて聞いてあげるようにしている。 

文句ばかりいっている時期も過ぎるときがある。 そして、その人がイエス兄さんの赦しというのを判ってくれればいいなぁ、と心の中で祈る。 何故なら、私は、人の批判、文句、怒りは、何もプラスにならない、というのを痛い思いを何度もして、やっとわかったから。


ばあちゃんは、今日も大声で、ご近所さんや、カード遊びをする友人や、パナマの兄弟たちと話しているんだろう。 でも、決して、悲しみや不平不満の中に浸らず、大声で, "Thank you, thank you." といっているに違いない。


あかしや番頭

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